グリー対DNA, ORSO事件

平成24年8月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成24年(ネ)第10027号 著作権侵害差止等請求控訴事件
原審・東京地方裁判所平成21年(ワ)第34012号
口頭弁論終結日 平成24年7月4日

控訴人兼被控訴人 グリー株式会社
被控訴人兼控訴人 株式会社ディー・エヌ・エー
被控訴人兼控訴人 株式会社O R S O

【判決文のURL】
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120810141349.pdf


【判決文における、争点およびそれに対する裁判所の判断】
争点1−1:
「魚の引き寄せ画面」に係る著作権及び著作者人格権の侵害の成否
争点1−1についての小括:
被告作品の魚の引き寄せ画面の表現から,原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。よって,第1審被告らが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を製作したことが,第1審原告の原告作品に係る翻案権を侵害するものとはいえず,これを配信したことが,著作権法28条による公衆送信権を侵害するということもできない。また,同様に,第1審被告らが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を製作したことが,第1審原告の原告作品に係る同一性保持権を侵害するということもできない。

争点1−2:
主要画面の変遷に係る著作権及び著作者人格権の侵害の成否
争点1−2についての小括:
被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列の表現から,原告作品のそれの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。よって,第1審被告らが被告作品を製作したことが,第1審原告の原告作品に係る翻案権を侵害するものとはいえず,これを配信したことが,著作権法28条による公衆送信権を侵害するということもできない。また,同様に,第1審被告らが被告作品を製作したことが,第1審原告の原告作品に係る同一性保持権を侵害するということもできない。

争点2:
不正競争防止法2条1項1号に係る不正競争行為の成否
争点2についての小括:
以上のとおり,原告影像が第1審原告を表示するものとして周知な商品等表示であるとはいえないし,被告影像1及び2が商品等表示として使用されているとはいえないから,これを掲載することが類似の商品等表示を使用して混同を生じさせる行為に該当するということはできない。原告影像の周知商品等表示性を根拠に被告影像1及び2の掲載行為を対象とする第1審原告の不正競争防止法2条1項1号に係る主張は,理由がない。

争点3:
法的保護に値する利益の侵害に係る不法行為の成否
争点3についての判決文における最終段落:
(3)したがって,仮に,第1審被告らが,被告作品を製作するに当たって,原告作品を参考にしたとしても,第1審被告らの行為を自由競争の範囲を逸脱し第1審原告の法的に保護された利益を侵害する違法な行為であるということはできないから,民法上の不法行為は成立しないというべきである。

【説示された内容の断片】
●携帯電話機用ゲームの特色について(判決文第53〜54頁)
 エ 携帯電話機用ゲームの特色
 ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームの画面構成においては,以下のような制約や特色がある。
 (ア) ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームでは,ディスプレイ上に表れる表示画面は常に一定ではなく,利用者が各画面に設置されたリンクを選択することによって異なる表示画面に遷移し,これを繰り返してゲームを進めるという仕組みになっている。したがって,上記携帯電話機用ゲームの画面構成は,純粋なゲーム画面(本件ではキャスティング画面及び魚の引き寄せ画面)を除くと,情報告知画面とリンクの組合せによって構成される。
 そして,携帯電話機の場合には,ディスプレイが小さく,利用者が一度に認識することができる情報量に制約があるため,多くの情報を掲載する場合,画面を下方にスクロールしてその情報を見る必要がある。そこで,利用者の便宜のために,一般的に,利用者が見たい情報やよく利用するページへのリンクは,なるべくウェブページの上方にまとまりよく配置するなど,配置の工夫が必要であり,文字情報も,短い言葉で表現することが必要である。
 また,ウェブページの閲覧においては,基本的に携帯電話機の上下キーと決定キーのみで操作する必要があるため,各リンクは,一般的に,リンク先の重要度に応じてウェブページの上から順番に配置される。
 したがって,特にトップページに関しては,全体のインデックスになるような画面にすることが要求される。また,レイアウトのバリエーションが少ないため,それぞれ見出しの下に共通の複数のコンテンツがまとめて配列されている。
 また,携帯電話機用ウェブサイトの利用者の多くは,休み時間や移動時間などわずかな時間を使ってアクセスをするといった時間の制約もある。そのため,利用者によるリンクの発見や閲覧の容易性,操作等の利便性の観点から,利用者が目的のページに達するまでの画面遷移や,それに必要なクリック数は,なるべく少なくする必要がある。さらに,どのページからも目的のページに達することができるようにすることも必要である(甲40,乙7,8,30,31)。

●著作物の翻案とは(判決文第31頁)
著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は,既存の著作物の翻案に当たらない(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。

●「ありふれた表現」について(判決文第39頁)
イ しかしながら,そもそも,釣りゲームにおいて,まず,水中のみを描くことや,水中の画像に魚影,釣り糸及び岩陰を描くこと,水中の画像の配色が全体的に青色であることは,前記(2)ウのとおり,他の釣りゲームにも存在するものである上,実際の水中の影像と比較しても,ありふれた表現といわざるを得ない。

●「ありふれた表現」について(判決文第55頁)
前記(1)ウのとおり,上記のような画面を備えた釣りゲームが従前から存在していたことにも照らすと,釣りゲームである原告作品と被告作品の画面の選択及び順序が上記のとおりとなることは,釣り人の一連の行動の時間的順序から考えても,釣りゲームにおいてありふれた表現方法にすぎないものということができる。

●「アイデア」について(判決文第39頁)
次に,水中を真横から水平方向に描き,魚影が動き回る際にも背景の画像は静止していることは,原告作品の特徴の1つでもあるが,このような手法で水中の様子を描くこと自体は,アイデアというべきものである。また,三重の同心円を採用することは,従前の釣りゲームにはみられなかったものであるが,弓道,射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用したものというべきものであって,釣りゲームに同心円を採用すること自体は,アイデアの範疇に属するものである。

●同一性保持権の侵害について(判決文第32頁)
また,既存の著作物の著作者の意に反して,表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に変更,切除その他の改変を加えて,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作することは,著作権法20条2項に該当する場合を除き,同一性保持権の侵害に当たる(著作権法20条,最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁参照)。

●「表現上の本質的な特徴を直接感得することができる」について(判決文第55頁)
また,被告作品には,原告作品にはない決定キーを押す準備画面や魚が画面奥に移動する画面があり,逆に原告作品にある海釣りか川釣りかを選択する画面や魚をおびき寄せる画面がないなどの点においても異なること,原告作品と被告作品とはその他にも具体的相違点があることも併せ考えると,上記の画面の変遷に共通性があるからといって,表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。


【参考:著作権法における、著作者の権利】
著作者人格権
  公表権(18条)
  氏名表示件(19条)
  同一性保持権(20条)
著作権(財産権)
  複製権(21条)
  上演権・演奏権(22条)
  公衆送信権・伝達権(23条)
  口述権(24条)
  展示権(25条)
  頒布権(26条)
  譲渡権(26条の2)
  貸与権(26条の3)
  翻訳権・翻案権等(27条)
  二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)