平成23年(行ケ)第10214号 審決取消請求事件

特許庁による、
・想到容易性
・設計事項
の判断が否定された。


平成23年(行ケ)第10214号 審決取消請求事件

(中略)
 しかしながら,本願発明は,周囲温度と,プリントヘッド素子に以前に提供されたエネルギと,プリントヘッド素子が印刷する予定の印刷媒体の温度とに基づいて,プリントヘッド素子の温度を予測するステップを有するものであるが,周知例1ないし3には,印刷媒体の温度に基づいて,サーマルヘッド(本願発明の「プリントヘッド要素」に相当する。)への印加エネルギー(同様に「入力エネルギ」に相当する。)を補正することは記載されているといっても,この補正は印刷媒体の温度に基づいて補正されるべきエネルギーを計算するものであって,プリントヘッド要素の現在の温度を予測するのに際して印刷媒体の温度を考慮することは何ら記載も示唆もされていない。周知例1ないし3においては,印刷媒体の温度の影響を考慮して入力エネルギーを補正することによって,より適正な印刷ができるようにするとの目的を達成しているのであるから,周知例1ないし3は,プリントヘッド要素の温度を予測するために用いる要件として,印刷媒体の温度を選択することの契機となり得るものではない。
 また,引用例には,周囲温度及びプリントヘッド要素に以前に提供されたエネルギーに基づいてプリントヘッド要素の現在の温度を予測するという引用発明を上位概念化して捉えることを着想させるような記載はないから,引用例にはプリントヘッド要素の温度を予測することが開示又は示唆されていると解釈した上で,印刷媒体の温度もプリントヘッド要素の温度に影響を及ぼす要素として周知であるとの事情を考慮することにより,プリントヘッド要素の現在の温度を予測する要件として,印刷媒体の温度を採用することが容易であるということもできない。
 したがって,引用発明に周知例1ないし3記載の周知の技術事項を適用しても,当業者が相違点に係る本願発明の構成を容易に想到することができたとはいえない。
(2) また,被告は,印刷媒体の温度に基づく補正において,単純に補正前のエネルギーに加算するのではなく,計算効率の観点から等式の形が大きく変更されないように,周囲温度とプリントヘッド要素に以前から提供されたエネルギーとに基づいて予測されるプリントヘッド要素の現在の温度Taに加算するように拡張した等式E=G(d)+S(d)Ta’を用いて,プリントヘッド要素に供給する入力エネルギーを計算することも,当業者が適宜設計し得ることであると主張する。
 しかしながら,印刷媒体の温度に基づいてプリントヘッド要素への入力エネルギーを補正するに当たり,印刷媒体の温度を考慮してプリントヘッド要素の温度を修正することは,周知例1ないし3に開示されていないし,入力エネルギーの計算効率を向上するために印刷媒体の温度を考慮してプリントヘッド要素の温度を修正することが技術常識であるとすべき根拠も見当たらないから,プリントヘッド要素の温度を修正して入力エネルギーを計算することが,当業者が適宜設計し得るものであるということはできない。
(3) 以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく,本願発明の容易想到性に係る本件審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。
(後略)